疾患案内
酒さ | なぜ起こり、どのように治療すべきでしょうか?
目次
1. 酒さとは?
酒さは、顔の中央部、特に頬・鼻・額・顎が赤くなる慢性の皮膚疾患です。
漢字で「酒」という字を使いますが、お酒を飲んだ時のように顔が赤くなる様子からその名が由来しています。
2. タイプと分類
酒さは症状によって大きく4つの亜型に分類されます。
2.1 紅斑毛細血管拡張型
最も一般的なタイプで、顔の中央部に持続的な赤みが現れます。
体温が上がったり感情が高ぶったりすると顔が火照り、時間が経過してもなかなか治まりません。
頬や鼻に毛細血管がクモの巣のように見えることもあります。
紅斑毛細血管拡張型の中でも、特に赤みがひどく、火照りやヒリヒリ感を伴い、一般的な治療に反応しにくい場合があります。これを神経性酒さと呼び、酒さ全体の約10〜15%を占めます。1 原因と治療については、神経性酒さのページで詳しく案内しています。
2.2 丘疹膿疱型
赤みとともに、吹き出物のような赤い隆起(丘疹)や膿(膿疱)が生じます。
ニキビと似ていますが、ニキビによく見られる「ブラックヘッド(面皰)」はありません。
2.3 鼻瘤(びりゅう)型
皮膚が厚くなり、凹凸が生じます。
特に鼻に生じやすく、「いちご鼻」とも呼ばれます。男性に多く見られます。
2.4 眼型
目が充血して乾燥し、まぶたが腫れてヒリヒリする症状が現れます。
ひどくなると視力に影響を及ぼす可能性があるため、眼科との連携が必要です。

3. 酒さの原因
伝統的に酒さは「血管が敏感で生じる病気」と説明されてきました。
しかし、最近の研究では、皮膚バリアの損傷が先に起こり、血管拡張はその結果であることが示されています。
3.1 核心メカニズム:バリア損傷
酒さ患者の皮膚は、深刻なバリア損傷を伴います。2

そして、損傷した皮膚バリアによって、以下のような連鎖反応が起こります:3、4、5
- 毛包虫の副産物の浸透:毛包虫が死ぬ際に放出する細菌や殻が、弱ったバリアを通過します。
- 炎症を誘発 → バリアのさらなる損傷 + 血管拡張(赤み)

3.2 酒さ・アトピー・脂漏性皮膚炎、何が違うのですか?
これら3つの疾患はすべて、皮膚バリアが弱いため、日常的な刺激でも接触皮膚炎が生じやすいという共通点があります。これに加え、各疾患には固有の悪化因子があります。
- 酒さ — 毛包虫(Demodex)の代謝産物が浸透し、血管拡張と炎症を引き起こします。
- アトピー — アレルゲン(ハウスダスト、花粉など)が浸透し、免疫過敏反応を引き起こします。
- 脂漏性皮膚炎 — マラセチア(Malassezia)真菌の代謝産物が浸透し、炎症を引き起こします。
根本的な原因が同じであるため、バリアの回復が必要であるという治療原則も共通しています。しかし、各疾患に適した追加治療が異なるため、正確な診断が重要です。
各疾患の詳細については、アトピー案内、脂漏性皮膚炎案内でご確認いただけます。

3.3 毛包虫(ニキビダニ)
デモデックス(毛包虫)は、もともと人の顔の毛包に生息している小さなダニです。健康な皮膚にも存在しますが、酒さ患者ではより多く発見されるという報告もあります。6、7
しかし、核心は毛包虫の「量」ではなく、毛包に対する「脆弱性」です。
皮膚バリアが丈夫であれば、毛包虫の副産物(細菌、外骨格の破片など)は皮膚内に入り込むことができません。6 しかし、バリアが弱まると毛包虫の副産物が皮膚内に侵入し、炎症を引き起こします。毛包虫検査で正常値が出ても、スーラントラ(イベルメクチン)が効果を示すケースが多いのはこのためです。8

4. スーラントラとロゼックスゲル
スーラントラ(イベルメクチン1%)は酒さの第一選択薬です。毛包虫を直接死滅させることで炎症の原因を減らします。使用初期には毛包虫の死滅反応によって一時的に症状が悪化することがあり、皮膚バリアが弱い状態では接触皮膚炎が生じる可能性があるため、注意が必要です。8、9
スーラントラの作用原理と使用時の注意事項に関する詳細はスーラントラ案内でご確認いただけます。また、ロゼックスゲル(メトロニダゾール)との比較はスーラントラ vs. ロゼックスゲル比較の記事で詳しくご確認いただけます。
5. ステロイド
酒さにはステロイド軟膏を使用しないことが推奨されます。他の疾患で処方されたステロイドを、酒さの症状に自己判断で使用してはいけません。
ドイツ皮膚科学会(2022)や米国国立酒さ協会(NRS)は、ステロイドが酒さの適応症ではなく、むしろ悪化させる可能性があると明示しています。9、10 その理由は以下の通りです。
- 皮膚バリアを薄くし、酒さの根本原因を悪化させます。
- 免疫抑制により毛包虫が増え、弱ったバリアを通じて副産物がより浸透しやすくなります。
- 中断時にリバウンドで血管がさらに拡張し、症状が悪化します。11
- もともと酒さがなかった人でも、顔に長期間使用すると酒さ様皮膚炎が生じることがあります。
6. プロトピックとエリデル
酒さにはステロイドを使わない方が良いため、必要に応じてプロトピックやエリデルが代替案となります。スーラントラ使用初期の死滅反応を緩和することもあります。12
ただし、皮膚バリアが弱い時は過剰に吸収されて接触皮膚炎が生じることがあるため、使用前にパッチテストで感受性を確認することをお勧めします。
プロトピックとエリデルは抗炎症効果のほかに、皮膚の感覚神経のTRPV1受容体を刺激してサブスタンスPやCGRPを放出させる作用があります。これは使用初期に火照りを感じる理由でもありますが、この作用を通じて神経性酒さの赤みや灼熱感に役立つことがあります。
各薬剤の使用文脈と特徴は、エリデル案内とプロトピック案内でご確認いただけます。
7. 保湿剤
保湿剤は皮膚バリア機能を補助し、外部刺激や毛包虫の副産物の浸透を減らします。ただし、皮膚バリアが弱い時は保湿剤も過剰に吸収されて刺激になることがあるため、適切な保湿剤を見つけることが重要です。3
保湿剤の役割と選択基準に関する詳細は、MDクリーム案内をご参照ください。
8. 生活の中の刺激源の管理
酒さは皮膚バリアが弱まった状態であるため、日常の些細な刺激も症状を悪化させる可能性があります。核心は、バリアをさらに崩す外部刺激を減らすことです。
8.1 香水と香料
- 皮膚炎悪化の主犯:香水は、アレルギー性接触皮膚炎を引き起こす最も一般的な原因の一つです。13 香水だけでなく、ディフューザーやルームスプレーなど、空気中に浮遊する香料成分も皮膚に付着して刺激になることがあります。
- 直接塗布の禁止:皮膚バリアが不安定な時は、皮膚に直接香水を吹きかけることを絶対に避けるべきです。香りを楽しみたい場合は、皮膚ではなく服や髪の毛の先などに少量使用するなどの代替案を検討してください。

8.2 その他の生活習慣
- 化粧品の最小化:皮膚バリアが回復するまでは、日焼け止めや化粧品の使用は控えるのが望ましいです。皮膚に染み込んで炎症を悪化させる可能性があります。
- 紫外線遮断:酒さに紫外線が良くないのは事実ですが、日焼け止めが染み込んで問題を起こすケースの方が多いです。日焼け止めよりも日傘やサンバイザーなどで紫外線を避けてください。
- 正しい洗顔とシャワー:皮膚に付着した刺激源を洗い流すことは非常に重要です。朝晩必ず洗顔とシャワーを行い、外部刺激にさらされた場合はすぐに洗う必要があります。しかし、洗浄力の強い洗顔料や熱いお湯はバリアをさらに崩します。バリアがかなり弱まっている状態なら水洗顔を中心に行い、ぬるま湯を使用してください。
- 体温への注意:サウナや入浴などによって体温が高くなると、皮膚の血流量が増えて炎症が悪化することがあります。
9. 当院の治療方針
私たちは単に炎症を抑制することよりも、皮膚バリアの回復をより重視しています。
そのためにパッチテスト、皮膚バリア機能検査を行った後、外部刺激を減らす生活習慣をご案内し、皮膚バリアを保護するための治療を並行します。
初診時

1. 遅延型アレルギー検査
プロトピック・エリデル・MDクリームに対する感受性の把握

2. 皮膚バリア機能検査
外部刺激を防ぐ皮膚バリア機能がどの程度損なわれているかを把握

3. 皮膚バリアの改善
創傷被覆材による皮膚バリアの保護
2回目の来院時

1. 生活習慣改善案の案内
検査結果に基づいた生活環境改善案の案内

2. MDクリームサンプルの提供
感受性のないMDクリームのサンプル提供

3. 軟膏の処方
必要に応じて感受性のない軟膏で炎症・毛包虫・真菌をコントロール

4. 皮膚バリアの改善
創傷被覆材による皮膚バリアの保護
結論
酒さは皮膚バリアの損傷から始まる慢性炎症疾患です。血管拡張と赤みは、バリア損傷 → 免疫過活性の結果であり、原因ではありません。
治療の核心は、皮膚バリアを回復させて免疫反応の出発点を遮断することです。
参考文献
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よくある質問
酒さは完治しますか?
慢性疾患であるため完全に無くすことは難しいですが、皮膚バリアを回復させ悪化因子を管理すれば、日常生活に支障のないレベルまでコントロール可能です。通常、3〜6ヶ月の継続的な治療で目に見える改善を実感いただけます。
酒さはニキビの一種ですか?
いいえ、違います。吹き出物(丘疹、膿疱)が生じる丘疹膿疱型酒さはニキビと似て見えますが、ニキビによく見られるブラックヘッド(面皰)がなく、原因も異なります。治療法も異なるため、正確な診断が重要です。
顔が赤いのは酒さですか?
顔の赤みの原因は様々です。酒さは顔の中央部(頬、鼻、額、顎)に持続的な赤みが現れ、毛細血管が見えたり吹き出物を伴ったりするのが特徴です。一時的な赤みとは異なり、時間が経過しても治まりません。
ステロイド軟膏を塗ると良くなるようですが、使い続けてもいいですか?
酒さにステロイド軟膏は使用しません。一時的には良く見えても、皮膚バリアをさらに弱くし、最終的に症状を悪化させます。ドイツ皮膚科学会のガイドラインおよび米国国立酒さ協会のいずれも、ステロイドを酒さの治療オプションから除外しています。
辛い食べ物やお酒は本当にやめなければなりませんか?
辛い食べ物やお酒(特に赤ワイン)は、皮膚神経の熱感受容体を刺激して血管を拡張させ、赤みを悪化させる可能性があります。完全に断つのが難しい場合は、症状がひどい期間は避け、バリアが安定した後に少量ずつ試してみるのが現実的なアプローチです。
デモデックス(毛包虫)検査で正常だと言われました。それでも治療が必要ですか?
はい、毛包虫の数が正常であっても治療が必要な場合があります。核心は毛包虫の量ではなく、皮膚バリアが弱まって通常の量の毛包虫の副産物にも反応してしまうことです。バリアを回復させれば、同じ量の毛包虫がいても症状が現れなくなります。
治療期間はどのくらいかかりますか?
個人差はありますが、通常1〜2ヶ月以内に初期の改善を感じ、3〜6ヶ月かけてバリアが安定します。その後も生活習慣の管理と定期的な経過観察が重要です。

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